オススメアメコミ紹介第7回:マウスガード 1152年 秋
「月曜日に書きます」なんて言わなきゃよかった。
しかし書く。
「小さな大冒険」とは、実によく使われるフレーズだ。
今回紹介する作品も、そんなフレーズがぴったりな大冒険活劇といえる。
「マウスガード:1152年 秋」だ。
マウスガードと言っても、口を保護するマウスピースのことではない。
ネズミが主人公の物語だ。
マウスガードは、2008年にアイズナー賞(漫画界のアカデミー賞と言われるほどの権威ある賞。日本ではAKIRAや無限の住人などが受賞)の子供向け漫画部門で賞をもらうほどの評価を得ている作品だ。
ファンシーでかわいい絵本のようなイラスト、子供向け漫画の部門受賞の肩書。
この二つのイメージからして、子供向けの作品だと思うかもしれないがとんでもない。
中身は実に骨太なファンタジーだ。
あらすじ
弱肉強食の掟は、現実でも漫画の世界でも変わらない。
彼らネズミは、常にいろんな捕食者の影に怯えて日々を生きている。
しかし、そんなネズミたちも黙って食われているわけではないのだ。
まず、ネズミたちは要塞「ロックヘイヴン」を建造し、捕食者たちから身を守った。
次に、次に捕食者たちと戦い、撃退する為の戦士を募った。
戦士たちは「マウスガード」と呼ばれ、力弱きネズミたちを守っている。
物語は、そんなマウスガードの一つの任務から始まった。
マウスガードの中でも腕利きの三匹「サクソン」「ケンズィ」「リアム」は、任務で行方不明の穀物売りを捜索兼護衛をするように命じられていた。
そして、この穀物売り探しを発端に、事件はロックヘイヴンを揺るがす大事件へと繋がっていく。
というお話だ。
「本当に子供向けの漫画賞を取ったの?」と聞きたくなるほど、ここから侵略、攻城戦、襲撃、殺人(殺鼠か?)と、やたらバイオレンスかつ大人が見ても楽しめるほど熱いストーリーが実に可愛い絵で描かれていくぞ。
サイズから考えるとほのぼのどころの騒ぎではないミツバチ攻撃。スズメバチなら大惨事必至だ。
マウスガードの三匹
物語の主役である三匹のマウスガードを紹介しよう。
まず、リアム。
リアムはマウスガードの中でも一番の若手であり、将来を有望視されている。
性格は勇敢であり、若さゆえの荒々しさも兼ね備えている。
途中で敵に捕まり連行されるも、なんだかんだで大活躍をする。
次に、ケンズィだ。
ケンズィはパトロール隊の隊長で、三匹の中で最も最年長だ。
思慮深く、冷静で知的なケンズィは、常に上手く仲間をまとめている。
棒術の達人でもあり、その武勇はマウスガードの中でも優れた腕前を持っている。
個人的には、マントのカラーリングや杖のせいでドラクエ5の主人公を彷彿とさせてくれる。
王族でもないし、バギも唱えないけど。
最後にサクソンだ。
サクソンは武勇に優れ、性格も荒っぽい熱血漢だ。
ケンズィとは真逆の性格ながらも、お互いを信頼し合い、親友としてコンビを組んでいる。
ただの脳筋というわけでもなく、きちんと考えて行動もしたりするが、敵の注意をひくための作戦がケンズィと街のど真ん中でガチの斬り合いをするというかなり危なっかしい作戦だった。
お互いを信頼しているからこそできるという作戦でもあるけど。
他にも、ロックヘイヴンの指揮官や、先の大戦で活躍をした伝説のマウスガードなど、様々なマウスガードが出てくるが、正直あまり見分けがつかない。
マントの色や体毛などで判別はつくが、顔は皆同じネズミだ。
マントがなく、たくさんの写真を並べられ「どれがリアムとサクソンとモブキャラだ」と尋ねられたら、正直答えられる自信はない。
面構えとかは微妙に違うのはわかるがそれでも難しいぞ。
ファンタジーでバイオレンスなネズミの世界
ここでは、マウスガードの世界観をほんの少し紹介していくぞ。
死と隣合わせの毎日
あらすじ冒頭でも書いたとおり、ネズミは常に捕食者の影に怯えて生きている。
しかし、この世界はマウス領という、マウスが住む領土というものがある。
このマウス領内は、狼などの捕食者が入ってこないようにいろんな手を施しているが、外はそんな防護策が一つもないので、領から一歩外にでることはすなわち死を意味することになる。
また、蛇や蟹、イタチなどは普通にマウス領内にいるので、領外よりはマシという程度であり、ロックヘイヴンなどの要塞がなければ一瞬で壊滅の危機に瀕するわけである。
しかもロックヘイヴンですら、全ネズミを収容できるほど規模のデカイ要塞ではない。
よって、ほとんどのネズミはマウス領の中で集落を作り、そこで生活をしている。
そして、そんなネズミを集落から集落へ移動させる際に道案内や護衛、斥候などを務めるのがマウスガードだ。
つまり、マウスガードはネズミが生きていくために非常に頼りになる組織というわけなのだ。
そんなマウスガードは常に命がけだ。
時には蛇と戦わざるを得なくなり、
巣の卵は見つけ次第全部壊す。慈悲はないというかかけたら死ぬ。
蟹の群れに襲われたり、
このシーンの絶望感はすさまじいぞ。
果てにはこの本では描かれていないがイタチと戦争したりと、基本的に勝ち目が殆ど無い戦いを常に強いられるのがマウスガードだ。
がんばれマウスガード。
装備は手作り、街も手作り
こういった小さな生き物のが主役の漫画にありがちなのは、人の手で作られた道具などを武器にしたり生活に役立てたりしている生活様式だ。
ジブリ映画の「借りぐらしのアリエッティ」では、まち針を武器にしたりドールハウスを家財道具にしているし、かつてジャンプで連載されていたつの丸先生の作品「サバイビー」では爪楊枝や石灯籠が登場する。
いかし、マウスガードの世界ではそんな便利アイテムは存在しない。
剣も斧も要塞もすべて一から作り、生活しているのだ。
そもそも、時代が1152年なので、まだそんなミニチュアなものが作られていないといったほうが適切かもしれない。
…と、言いたいところだが、実はそんなことはなかったりする。
唐突だが、ここで歴史のお勉強だ。
※ここから次の段落までマウスガードとは一切関係ない話になっています。
今回のお題はドールハウスについて。
ドールハウスそのものの存在は、紀元前のエジプトから存在を確認されている。
この当時はまだ儀式などに使われるものであり、今の子供のおままごとや趣味で集めるようなものではなかった。
しかし、この時代には既に木や石でミニチュアの船や人が作られているってンだからすさまじい。
また、今の時代の原型となったドールハウスは、本来はお遊び兼テーブルマナーなどを学ぶための知育グッズのようなものだったそうな。
日本で初めてドールハウスのようなものを確認できる文献は「源氏物語」だ。
作中でミニチュアの家具を使って雛人形で雛遊び(ひいなあそびとも言う)をしている描写があり、既にこの時代からミニチュア家具はあったと推測される。
なお、源氏物語の初出は1008年とマウスガードの時代よりも100年以上昔だ。
ちなみに、ヨーロッパのもので現存している最古のドールハウスは1600年台のものだが、もっと昔からドールハウスそのものは作られていたようだ。
なお、日本では源氏物語の時代のミニチュア家具などの実物は現在見つかっていない模様。
つまり、マウスガードの世界にこういったミニチュア家具が出ても何ら問題はないということだ。
まあ、作中で一切登場しないけどね。
感想
作品の感想だが(言う必要あるか?)、凄く面白い。
ストーリーもさることながら、イラストが実に素晴らしく、ファンタジーのような世界観でスラスラ楽しく読めるし、絵にも魅了されたよ。
「そうそう、こう言うのが読みたかったんだよ」と思わせてくれる作品で、ファンタジーやネズミが好きならぜひとも買うことをおすすめする。
本当に面白かったぞ。
ただ、不満を言わせてもらうなら、案の定値段だ。
アメコミの例に漏れず、非常にお高い。
3000円だ。
しかもボリュームが若干少なく感じたので、凄く満足したがそれと同時にほんの少しだけ後悔の念も混ざっちゃったのがつらいところだ。
だが、繰り返して言うぞ。
作品そのものは大満足だ。
アメコミはヒーローがヴィランをぶん殴る作品だけではない。
こういったファンタジーな世界も楽しめるのだ。
ちなみにMARVELでもDCでもないのでキャプテン・アメリカやスーパーマンとの共闘は恐らく今後一切ない。
そもそも時代がもっと昔だし。
なお、翻訳版は少プロブックス様から発刊されている。
興味がある方はぜひご一読を。